CASE STUDY 07 | ヴァンフォーレ甲府

甲府・専用スタジアム問題
——日本一でも実らぬ、県が公費を拒む10年

約9.6万筆の署名、県の基本計画(総事業費110〜120億円)まで進みながら、知事の「県の負担が大きい」の一言で凍結——。 2022年に天皇杯を制しACLに出場しても、自前スタジアムはできませんでした。このケースは、 「行政が税金投入を拒んだ」という、税リーグ問題のもう一つの側面を映します。

対象期間:2006年〜2024年/県主導の構想は凍結、民間の動きへ
JITリサイクルインクスタジアム
現在のホーム「JITリサイクルインクスタジアム」(専用スタジアム構想は凍結) 写真:ローザ(CC BY 3.0)/ Wikimedia Commons
WHY IT MATTERS

問題の背景

ヴァンフォーレ甲府の現ホーム「JITリサイクルインクスタジアム」(山梨県小瀬スポーツ公園陸上競技場、山梨県所有)は 陸上トラック併設で、観戦環境に課題があります。専用スタジアム構想は2014年の署名運動に始まり、県が基本計画まで 策定しましたが、「県の負担が大きい」として2019年に凍結されました[1]

このケースの独自性——“逆”の税リーグ論 他の多くの事例が「公費が投じられること」を問題にするのに対し、甲府は行政(県)が公費投入を拒み続けた事例です。 見方を変えれば「税金が守られた」ケースであり、税リーグ問題を一方向でなく立体的に考える材料になります。 同時に、「日本一のクラブでさえ自前でスタジアムを持てない」という構造的な難しさも示しています。
約9.6万筆
専用スタを求めた署名(2014年)
年5千万
〜8千万
計画時の県の恒常負担試算
国立に
「間借り」
2022年ACLは自前スタ不可で県外開催
TIMELINE

時系列(2006 → 2024)

2006年11〜12月

知事が早期建設を公言→即撤回

山本知事が専用スタジアムの早期建設を公言するも、12月県議会で「予算的に厳しい」と撤回。以後、構想は長く塩漬けに。

出典:Wikipedia「山梨県総合球技場構想」
2014年9月12日 ★

9万5,627筆の署名を県に提出

サッカー・ラグビー・アメフトなどの団体とクラブが共同で署名運動を展開し、横内知事らに提出。「10万人に近い署名の重みをくみ取ってほしい」と訴えた。

出典:ヴァンフォーレ甲府公式/Wikipedia
2016年

検討委員会が規模・費用・候補地の骨格を決定

収容2万人、建設費76〜140億円、候補地は「小瀬スポーツ公園周辺」と「リニア中央新幹線・駅南側(大津町)」の2案が示される。

出典:Wikipedia「山梨県総合球技場構想」
2017年7月11日

県が候補地を小瀬公園第三駐車場に決定

リニア駅周辺より土地取得費で有利と説明。しかし県議会からは「独断的決定」「収支が見えない」との反発も出た。

出典:Wikipedia「山梨県総合球技場構想」
2019年3月20日 ★

基本計画報告書を発表(総事業費110〜120億円)

総事業費110〜120億円、年間運営費1.3〜1.4億円、ネーミングライツ収入を差し引いた県の実質負担は年5千万〜8千万円と試算。 公費負担の構造が数字で明確になった。

出典:Wikipedia「山梨県総合球技場構想」
2019年11月26日 ★★

知事が全面見直しを表明(事実上の凍結)

長崎幸太郎知事が「県の負担が大きい」として計画を白紙化・見直し。積み上げてきた構想は、行政トップの判断で凍結された。

出典:Wikipedia「山梨県総合球技場構想」/JとFの歩き方
2022年 ★

天皇杯優勝・ACL出場——それでも現スタは基準未達

クラブが天皇杯で日本一に輝きACL出場権を獲得。しかし現スタジアムがAFC基準(背もたれ席・VIPルーム等)を満たさず、 ACLは国立競技場など県外で「間借り」開催。成功と施設のミスマッチが露呈した。

出典:Wikipedia「ヴァンフォーレ甲府」
2023年6月

県が改めて否定的姿勢

県が県議会で「持続可能性なき建設」として、専用スタジアム建設に否定的な見解を示したとされる。凍結姿勢は続いた。

出典:Wikipedia「山梨県総合球技場構想」※一次議事録は未確認
2024年4月頃 ★

民間団体「MWARENAproject」が発足(民設民営)

行政に深く頼らない「民設民営」で、1.5万〜2万人規模のコンパクトな専用スタジアムを提唱する民間任意団体が発足。 候補地はリニア中央新幹線・山梨県駅(仮称)前。英ボーンマスのスタジアムをモデルにした。県主導構想の停滞を、民間が引き取る形となった。

出典:フットボールゾーン(2024.4)/MWARENAproject公式
なお、一部で語られる「2024年のクラブによる署名再提出」「totoからの補助30億円内定」「2026年3月までに新設か改修かを決める」といった情報は、 今回の調査で確たる一次出典を確認できませんでした。本ページでは【未確認】として扱い、掲載していません。
ANALYSIS

この事例が問いかけること

「税金を守った」という評価 甲府は、行政が「年5千万〜8千万円の恒常負担は大きい」と判断し、公費投入を見送った事例です。 税リーグ批判の立場からは、安易に税金を投じなかった慎重な判断として評価できます。 「クラブの成功=スタジアム建設」という圧力に、行政がブレーキをかけた形です。
それでも残る構造問題 一方で、天皇杯を制した日本一のクラブでさえ、自前のスタジアムを持てず国立競技場に「間借り」する現実は、 Jリーグのスタジアム基準と地方クラブの資金力のギャップを浮き彫りにします。だからこそ民間が「民設民営」を 掲げざるを得ない——それ自体が、従来の公費頼みの構想が行き詰まったことの裏返しでもあります。

甲府のケースは、税リーグ問題が「公費を出すか出さないか」の単純な善悪ではないことを教えてくれます。 出さない判断にも、出す判断にも、それぞれの責任と説明が求められる——そのことを最もよく示す事例です。

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SOURCES

出典

  1. Wikipedia「山梨県総合球技場構想」/「ヴァンフォーレ甲府」(年表の骨格・基本計画・凍結の経緯)/ヴァンフォーレ甲府公式(2014年署名提出)/フットボールゾーン・MWARENAproject公式(2024年発足)/JとFの歩き方。※県の2023年否定発言の一次議事録、および「2026年3月期限」「toto補助」「2024年署名再提出」は確認できず、本ページでは扱っていません。掲載用途では山梨日日新聞・県議会会議録での再確認を推奨。
報道・公開資料に基づき時系列に整理したものです。日付・金額・発言は媒体により差がある場合があり、最新情報は各一次資料でご確認ください。特定の個人・団体を誹謗中傷する意図はありません。