CASE STUDY 11 | サンフレッチェ広島

広島・エディオンピースウイング
——16年の迷走と256億円、そして「稼働率」の実際

2024年に開業した街なかの専用スタジアムは、Jリーグ有数の成功例として語られます。しかしそこに至るまでには 約16年に及ぶ建設地の迷走があり、建設費256億円は公費で賄われました。「稼働率が低い」という批判は 正しいのか——事実に即して、この“成功例”の裏側を検証します。

対象期間:2003年〜2024年(開業)/稼働データは2024シーズン
エディオンピースウイング広島
2024年に開業した「エディオンピースウイング広島」 写真:Bsx(CC0)/ Wikimedia Commons
WHY IT MATTERS

“成功例”をあえて検証する意味

エディオンピースウイング広島は、サンフレッチェ広島が20年以上求め続けたサッカー専用スタジアムで、2024年2月に開業しました。 街なか立地で観客動員も好調——「まちなかスタジアムの理想形」と評されます。しかし本サイトがこのクラブをあえて取り上げるのは、 「新しくてお洒落な専用スタジアム=民間がつくった」という誤解を正し成功例であっても公費・意思決定・汎用性という論点は残ることを示すためです[1]

約16
構想から建設地決定までの年数
256.96億円
建設費(事業主体=広島市=公費)
90.3%
2024年の平均収容率(Jリーグ最高)
TIMELINE

建設地をめぐる16年の迷走

「都心(旧市民球場跡地)」を望むクラブと、「臨海部(みなと公園)」を推す行政の対立が長く続きました。

2003年4月1日

構想スタート(2万人・屋根付き・100億円以内)

秋葉忠利市長の公約で「スタジアム推進プロジェクト」が発足。だが資金・候補地の壁に当たり頓挫する。

出典:Wikipedia「広島のサッカースタジアム構想」
2012年8月〜2013年1月

J1初優勝で機運再燃、37万筆超の署名

2012年のJ1初優勝を受け建設要望が高まり、2013年1月に37万0,579筆の署名を県・市に提出。

出典:Wikipedia「広島のサッカースタジアム構想」
2014年11〜12月

「旧市民球場跡地」と「みなと公園」の2案に絞る

検討協議会が、都心の旧広島市民球場跡地と、臨海部の広島みなと公園(宇品)の2案に絞る答申。

出典:Wikipedia「広島のサッカースタジアム構想」
2015年7月〜2016年3月 ★

行政「みなと公園」推し vs クラブ「旧市民球場跡地」で対立

知事・市長・商工会議所が「みなと公園が優位」で一致すると、サンフレは反発。2016年3月、久保会長が旧市民球場跡地案を独自発表し、 「建設費140億円に圧縮可能」「みなと公園での経営は債務超過に陥る」と主張して真っ向から対立した。

出典:Wikipedia「広島のサッカースタジアム構想」
2016年8〜9月

2案とも白紙化、「第3の候補地」が浮上

4者トップ会談で「両案にこだわらず再検討」で一致(=2案とも事実上白紙)。その後、中央公園の自由・芝生広場を新候補地に加えることで合意した。

出典:Wikipedia「広島のサッカースタジアム構想」
2019年2月6日 ★★

建設地を「中央公園自由・芝生広場」に最終決定

クラブ案でも行政案でもない第3案に一本化。構想開始(2003年)から実に約16年を要した。 意思決定の長期化・非効率が、そのままこの事業の特徴となった。

出典:Wikipedia「広島のサッカースタジアム構想」
2022年2月〜2024年2月

起工から開業へ

2022年2月起工、2024年1月31日竣工、2月1日開業。2月10日のガンバ大阪戦で初試合を迎えた。構想から開業まで約21年。

出典:Wikipedia「エディオンピースウイング広島」
THE MONEY

建設費256億円——「公設・民間運営」という実態

ピースウイングは、しばしば「民間がつくった成功例」と誤解されます。しかし事業主体は広島市(公設)で、 運営をサンフレッチェ広島が指定管理者として担う形です[1]

お金の骨格(複数報道で一致する部分) ・建設費:256億9,600万円(周辺整備込みの総事業費は約285.7億円との報道も)
・事業主体:広島市。国の交付金を充当し、県・市が各50%を負担する枠組み
・民間寄付:エディオン30億円、マツダ20億円、地元443社で18億円超、個人3.5億円超
・運営:サンフレッチェ広島が指定管理(9年3か月)。管理費(納付金)約4億9,900万円を市に支払い
資金内訳の各金額(国費・県費・市費・市債)は二次情報で数字にばらつきがあり、断定は避けています【一部未確認】。 ただし「建設費約257億円・広島市が事業主体・企業と市民の寄付も投入」という骨格は複数ソースで一致します。 つまり建設リスクは自治体(税金)が負い、運営益はクラブ側に入るという、税リーグ論の典型的な官民の負担配分がここにもあります。
FACT CHECK

「稼働率が低い」は本当か

結論から言えば、新スタジアムの集客は低くありません。むしろJリーグ最高水準です。事実は事実として認めた上で、本当の論点を示します。

事実:集客はJリーグ最高水準(=擁護材料) 2024シーズンの平均入場者は25,609人、年間動員486,579人、平均収容率90.3%でJリーグ最高。 ホーム19試合中18試合が完売し、クラブ売上は前年の約42億円から78億円へ過去最高を更新しました。 「作ったが客が入らない」という批判は、ピースウイングには当てはまりません[2]
それでも残る論点:汎用性と「試合日以外」の稼働天然芝のサッカー専用で全天候型の屋根もなく、芝の損傷リスクからコンサート等の大型多目的利用には制約がある。
②公費でつくった施設なのに、試合日以外の一般開放は構造的に難しく、年間の非サッカー稼働を示す公開統計も乏しい。
→ 「公共施設としての稼働の透明性」は、集客とは別に問われ続けます。

本当に「稼働率が低かった」のは旧スタジアムだった

皮肉なことに、「稼働率・使い勝手の低さ」がより当てはまるのは、旧ホームの エディオンスタジアム広島(広島ビッグアーチ)でした。広島駅から遠いアクセスの悪さ、来場者の半数が自家用車利用なのに 駐車場が限られる問題、陸上トラックが観客席とピッチを隔てる臨場感の乏しさ、竣工30年超の老朽化—— これらが「都心の専用スタジアムを新設する」最大の理由になりました。旧スタは移転後、名称を変えて陸上・アマチュア用に存続していますが、 維持管理コストが今後の課題として残ります[3]

ANALYSIS

この事例が問いかけること

批判の視点 集客の成功は事実だが、それは「256億円の公費投入が正当化されるか」とは別の問題だ。建設地決定に16年を費やした 意思決定の非効率、建設リスクは公・運営益は民という負担配分、そして専用施設ゆえの汎用性の低さ——。 「成功したから結果オーライ」で、これらの検証を省略してよいわけではない。
反論・擁護の視点 収容率90.3%・18試合完売・売上78億円という成果は、公費投入の妥当性を裏づける強い材料だ。 エディオン・マツダ・地元443社・市民の寄付という「みんなで作った」構図もあり、純粋な税負担ばかりではない。 アクセス難だった旧スタの課題を解消し、街の回遊・経済効果も生んでいる。

広島は、税リーグ問題が「成功か失敗か」の二択ではないことを教えてくれます。 集客は大成功でも、公費の使い方・意思決定・稼働の透明性は、成功例だからこそ丁寧に検証する価値があります。 「良いスタジアムができた」ことと「公費の使い方が最適だった」ことは、分けて考えるべきなのです。

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SOURCES

出典

  1. Wikipedia「広島のサッカースタジアム構想」「エディオンピースウイング広島」(建設迷走の年表・建設費256.96億円・広島市が事業主体・指定管理)/日経BP PPPまちづくり/yayuyota.jp(資金内訳・寄付)。※資金内訳の各金額は二次情報でばらつきあり、一次資料での確認を推奨。
  2. ITmedia ビジネスオンライン(2025.3.10 平均25,609人・収容率90.3%・18試合完売・売上78億円)/フットボールチャンネル「Jリーグ収容率ランキング2024」/WEリーグ公式(2025)。
  3. THE ANSWER/footballista(前後編)/Football Tribe Japan(2026.1.26 旧エディオンスタジアムの現状)。※新スタの年間非サッカー稼働日数、旧スタの具体的稼働率は公開統計を確認できず。
公開情報に基づく検証です。金額・数値は媒体により差がある場合があり、最新・正確な情報は一次資料でご確認ください。集客・稼働に関しては、事実に反する断定(例:新スタジアムの稼働率が低い等)を避け、確認できた数値に基づいて記述しています。特定の個人・団体を誹謗中傷する意図はありません。