名古屋・飲食料品卸売業「山榮堀商店」が雇調金1350万円を詐取
新型コロナウイルス対策の雇用調整助成金(雇調金)を不正に受給したとして、愛知労働局は2026年4月28日付で、名古屋市西区に本社を置く飲食料品卸売業「山榮堀商店」の社名などを公表しました。愛知労働局は、新型コロナウイルス対策の雇用調整助成金を不正受給したとして、名古屋市西区の飲食料品卸売業「山榮堀商店」など2社の社名などを公表した。28日付。
この公表は、コロナ禍から5年目を過ぎた2026年においてもなお、労働局による遡及調査と摘発が続いていることを象徴する事案です。本記事では、当メディアで既報の観光・IT・農業・広告代理店系の不正事案(アルカディア/ワールドエージェント/大柳ファーム/エッグフォワード等)とは異なる、生鮮・飲食料品卸売業界における個別不正事件として、山榮堀商店のケースを深掘りします。
事件の概要
愛知労働局が公表した内容によれば、山榮堀商店は、支給申請した一部の労働者が休業していないのに休業したとする虚偽の書類を作り、2021年1月~22年11月に計約1350万円を不正受給したとされる。
注目すべきは、不正受給の期間が2021年1月から2022年11月までの約2年間にわたっている点です。緊急事態宣言の発令から徐々に社会経済活動が正常化していく過程で、継続的に虚偽の休業書類が作成されていたことになります。労働局は同日、山榮堀商店を含む2社を一括で公表しており、名古屋圏でのコロナ関連助成金不正の摘発が今もなお続いていることが示されています。
不正の手口──「一部労働者を休業扱い」にする典型パターン
本件の手口は、コロナ禍の雇調金不正で全国的に頻発した「一部の従業員のみを対象にした虚偽の休業申請」という典型パターンです。全社員一斉休業ではなく、実際には通常勤務している一部社員について「休業した」ことにして休業手当相当額を申請するもので、外形上は事業所全体が稼働しているため発覚しにくい特徴があります。
飲食料品卸売業は、コロナ禍でも飲食店向け需要は落ち込んだ一方、スーパー・小売向け需要は伸びるなど業務の凸凹が大きい業種です。この「実際に一部業務が縮小した」という現実の背景を利用し、休業実態のない従業員まで対象に含めて申請額を水増しする手口は、労働局が最も警戒しているスキームの一つです。
雇用調整助成金(雇調金)制度の概要
制度の目的と仕組み
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るために労使協定に基づいて休業・教育訓練・出向を実施した場合に、休業手当や賃金の一部を助成する制度です。雇用調整助成金とは、「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、「労使間の協定」に基づき、「雇用調整(休業)」を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成するものです。
コロナ特例では申請要件が大幅に緩和され、最近1か月間の売上高または生産量などが前年同月比5%以上減少していることという比較的緩やかな売上減要件で受給可能となりました。
支給規模と特例措置の光と影
厚生労働省の統計では、コロナ特例による支給決定累計は約4兆6540億円に達しました。一方で、この巨額の資金は不正受給を誘発する温床にもなりました。全国の労働局が12月31日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給件数が、2020年4月から累計1,545件に達したことがわかった。不正受給総額は494億5,939万円にのぼる。
さらに、都道府県別の最多は愛知県の234件で、東京都(193件)に41件の差を付け、唯一200件を超えた。と、愛知県は全国で最も雇調金不正が多い都道府県となっており、今回の山榮堀商店事案もこの流れの中に位置付けられます。
不正受給に対する行政処分と刑事責任
①金銭ペナルティ──「返還+2割違約金+延滞金」
雇調金の不正受給が認定された場合、単なる返還では済みません。■不正受給の場合、 ・不正発生日を含む判定基礎期間以降の金額 ・不正受給額の2割相当額(違約金) ・年3分の延滞金 の合計額を返還請求します。
山榮堀商店のケースに当てはめると、不正受給額約1350万円に加え、20%の違約金(約270万円)と2021年1月からの年3%延滞金が上乗せされます。総額は優に1600万〜1800万円規模になる計算です。
②5年間の助成金申請停止
■不正受給日から5年間、雇用関係助成金(不正受給を行った 以外の助成金を含む)は受給できません(不支給)。 ※全額返納されていない場合は延長されます。
つまり、雇調金だけでなくキャリアアップ助成金、人材開発支援助成金、両立支援等助成金など、厚生労働省所管のすべての雇用関係助成金が5年間受給不可となります。人手不足に悩む中小卸売業にとって、採用・人材育成に活用できる助成制度を丸ごと5年間失うことは、経営上の重い足枷です。
③公表と社会的信用の失墜
自主申告ではない不正受給事案については、例外なく事業主名等を公表します。 ※支給決定取消等を行った額が100万円未満を除く。
山榮堀商店のケースは労働局の調査により発覚した「非自主申告」事案とみられ、公表基準(100万円以上)を大きく上回るため、社名・所在地・不正の概要が愛知労働局のウェブサイトに掲載されました。取引先スーパーや飲食チェーンとの与信、金融機関との融資交渉、新規採用など、あらゆる場面で信用低下は避けられません。
④刑事責任──詐欺罪(最大10年)のリスク
労働局が特に悪質と認めた場合、警察への刑事告発に発展します。持続化給付金、雇用調整助成金のいずれについても、不正であることを認識した上で申請を行い、助成金を受給してしまった場合は、刑法上の詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性があります。 · 詐欺罪が成立する場合、10年以下の拘禁刑に処せられる可能性があります。
さらに被害額が高額であり、被害弁償ができていないような場合は、不正受給を主導した者に対し、実刑判決がなされる可能性もありますので、注意が必要です。と指摘されています。1350万円という金額は、過去の裁判例に照らせば実刑判決が視野に入る水準です。
なぜ愛知県で雇調金不正が全国最多なのか
遡及調査は「5年時効」との戦い
愛知県が234件と全国ワーストを更新している背景には、厚生労働省の遡及調査の徹底があります。雇調金等は支給決定から5年間で消滅時効が成立する。このため、2025年はコロナ禍初期の不正受給が時効を迎える。しかし、制度を悪用した不正受給には、引き続き厳しい姿勢で時効成立を許さない対応が求められる。
山榮堀商店の不正期間(2021年1月〜2022年11月)は、まさに時効まで残り時間が少ないタイミングです。労働局は「時効成立前に片付ける」姿勢で調査を加速しており、2026年4〜6月にかけて公表事案が相次いでいます。
悪質性が認められた場合の刑事告発ルート
不正受給は、助成金の全額返還など金銭的ペナルティだけでなく、明確なコンプライアンス(法令順守)の意識欠落として金融機関や取引先からの信用低下が避けられない。らに、悪質性が極めて高い場合、代表者など関係者の逮捕に至るケースもある。
山榮堀商店のケースは現時点で公表段階に留まっていますが、労働局が組織性・反復性を悪質と判断した場合、名古屋地検・愛知県警に刑事告発される可能性は残されています。
個別事件から中小企業経営者が学ぶべき5つの教訓
教訓1:「一部社員休業」は最も摘発されやすい類型
事業所全体の休業と異なり、一部社員のみを休業扱いにする申請は、タイムカード・給与台帳・業務日報との突合で容易に発覚します。労働局の実地調査では従業員本人へのヒアリングも実施されるため、「勤務実態と申請内容の齟齬」は必ず露見します。
教訓2:外部コンサルの指南を鵜呑みにしない
重要なのは、「コンサルタントにすべて任せていた」「業者の指示に従っただけ」という弁明は通用しない点です。補助金の申請者は事業者本人であり、代理人や支援業者が不正を行った場合でも、申請者自身が責任を問われます。申請書の内容は、必ず自分の目で確認してから提出してください。
教訓3:時効前の「自主申告」で公表回避の道がある
自主申告を行い、迅速に全額返還していただければ、事業主名の公表を原則として行いません。(※特に重大又は悪質の場合は非公表とはなりません。)。
過去に不適正な申請があった疑いを抱えている経営者は、労働局の調査が入る前に自主申告することが最大の防御策です。公表回避により、取引先との関係や金融機関の与信を守ることができます。
教訓4:帳簿・証憑は最低5年間の保存を徹底
雇調金の遡及調査は5年遡って行われます。休業実施日ごとのタイムカード原本、賃金台帳、労使協定書、休業手当支払記録は、支給決定から5年間は必ず保管してください。
教訓5:公表事案は「同業のリスト」として活用する
愛知労働局のサイトには不正受給の公表事案が掲載されており、飲食料品卸売業・宿泊業・美容業など業種別に事案が並んでいます。同業他社の不正手口を反面教師として社内研修に活用することは、コンプライアンス強化の第一歩です。
まとめ──コロナ雇調金不正の摘発は「まだ終わっていない」
山榮堀商店の事案は、コロナ雇調金の遡及調査が2026年時点でも全く緩んでいないことを示す個別具体例です。特例措置終了から3年以上が経過してもなお、名古屋という大都市の中堅飲食料品卸売業が1350万円という規模で摘発された事実は、あらゆる業種の中小企業経営者にとって「他人事ではない」警鐘です。
2020〜2022年に雇調金・小学校休業等対応助成金・緊急雇用安定助成金を受給した企業は、この機会にもう一度自社の申請内容と実際の勤務実態を照合することを強くおすすめします。時効まで残された時間はわずかで、労働局の遡及調査は今も進行中です。
参考情報
- 中日新聞Web「コロナ助成金、不正受給の2社を公表 愛知労働局」(2026年4月29日): https://www.chunichi.co.jp/article/1244626
- 愛知労働局「雇用関係助成金等の不正受給による公表事業所」: https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/_huseijukyuu_00004.html
- 厚生労働省「雇用調整助成金 不正受給」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/kochokin_husei.html
- 厚生労働省「雇用関係助成金の不正受給について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00061.html
- 東京商工リサーチ「『雇用調整助成金』の不正受給公表1,545件 愛知県が200件超」: https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200874_1527.html
- デイライト法律事務所「助成金の不正受給|逮捕される可能性や罰則について」: https://www.daylight-law.jp/criminal/zaisan/sagi/qa8/
