ノースサファリサッポロ無許可開発問題と補助金返還命令
札幌市南区の民間動物園「ノースサファリサッポロ」で発覚した無許可開発問題に関連し、運営会社サクセス観光が受給していた国の補助金約6,000万円について交付決定が取り消され、全額返還命令が出されました。さらに札幌市も、同社に対して連動して交付していた市の補助金750万円を全額返還請求する方針です。本記事では、この補助金返還命令に至る経緯と背景、行政側の対応や課題について詳しく整理します。無許可開発を20年近く放置していた経緯や、国会での指摘、世論の反応なども踏まえ、行政関係者の視点から考察します。
ノースサファリサッポロとは – 特異な体験型動物園
ノースサファリサッポロは2005年7月に開園した体験型の民間動物園で、札幌市中心部から車で約50分の郊外(南区豊滝)に位置します。ライオンやトラなど約150種もの動物を飼育・展示し、間近でエサやりや触れ合いができる刺激的な企画で人気を集めてきました。テレビ番組で「日本一危険な動物園」と紹介されたこともあり、週末には家族連れなどで賑わう観光スポットでした。
しかしその一方で、動物福祉への配慮に欠ける過激な触れ合い演出や狭い飼育環境について近年は批判も強まっていました。例えば2024年には「アザラシと泊まれるコテージ」と称して宿泊施設内からガラス越しにアザラシを一晩中展示する企画を実施し、「動物虐待ではないか」との声がSNS上で炎上する事態にもなっています。この騒動では札幌市に約500件もの苦情が寄せられ、市の保健所が立ち入り調査に入る事態となりました。こうした問題が表面化する中で、同園の法令違反の状況にも改めて注目が集まったのです。
無許可開発の背景 – 市街化調整区域で20年違法営業
ノースサファリサッポロ最大の問題は、都市計画法に基づく開発許可を得ずに園内施設を建設・営業してきた点にあります。所在地の豊滝地区は市街化調整区域と呼ばれ、原則として大規模な開発や建築行為が制限される地域です。本来であれば動物園のような施設を開設するには、都市計画法に基づく事前の開発許可が必要でした。しかしノースサファリは許可を取らないまま2005年の開園当初から営業を開始し、以後ほぼ20年間にわたり違法状態が続いていたのです。
札幌市は開園前の2004年時点で無許可の建築工事を把握し、その後も行政指導を繰り返してきましたが、運営者は改善に応じませんでした。札幌市職員が2024年4月、ノースサファリサッポロに立ち入り検査を実施した際の様子(札幌市南区)。むしろ施設は年々増築を重ね、違法建築物の数は当初の10棟から2024年には150棟超にまで拡大したとされています。レストランや宿泊コテージといった付帯施設まで次々と増やし、事業規模を拡大していったのです。
このように長年にわたり違法状態が放置された背景には、行政の縦割りによるチェック体制の不備も指摘されています。札幌市は都市計画法違反については改善指導をしていた一方で、営業許可など他の分野では基準を満たす限り許可を出さざるを得ず、結果的に違法施設に飲食店営業許可や宿泊営業許可が与えられていた時期もありました。行政書士の橋本啓太氏は「各部署がそれぞれの法律に基づいて許可を出す縦割り行政の弊害で、部署間連携がほとんど無かったことが今回の事例を招いたのではないか」と指摘しています。事実、市は長年指導を続けながらも強制力のある処分に踏み切れずにいましたが、動物愛護上の問題提起や違法建築の拡大を受け、2024年末から施設の除却命令(撤去命令)を本格的に検討し始めました。2025年2月には秋元克広市長が「建物の撤去を進めてもらう」と明言し、ついに運営側も2025年9月末での閉園と全違法建築物の撤去(2029年まで)を表明するに至りました。運営会社社長の引責辞任も発表され、現在は動物の引き受け先確保や段階的な移送作業が進められています。
事業再構築補助金6,000万円の交付と違反発覚
一連の違法開発問題がクローズアップされる中で明らかになったのが、運営会社サクセス観光が国から巨額の補助金を受け取っていた事実です。それは経済産業省所管の中小企業基盤整備機構が実施する「事業再構築補助金」で、コロナ禍で打撃を受けた事業者の新分野展開を支援するための制度です。サクセス観光は2021年度、この補助金に応募して約6,000万円の交付決定を受けました。用途は「新しい宿泊施設の新設」で、園内にグランピング風のコテージ(トレーラーハウス型宿泊施設)を整備する計画でした。
当時、この新宿泊施設はノースサファリの目玉事業として地域経済活性化にも期待され、補助金交付も妥当とみられていました。しかし皮肉にも、この宿泊施設こそ無許可開発の一部だったのです。後の調査で、宿泊施設の建設が都市計画法上の許可を経ていない違法行為であることが判明し、補助金交付自体が問題視されました。行政としては補助金の適正支出の前提に法令順守があるため、違反が確認された以上、もはや交付を認めておくわけにはいきません。
そこで中小企業基盤整備機構は2025年7月23日付で補助金交付の決定を取り消し、6,000万円全額の返還を求める通知を同社に出しました。これは極めて厳しい措置ですが、制度上、違法事実が判明した場合には交付決定取り消し=全額返還となるのが原則です。結果としてサクセス観光は、一旦受け取った6,000万円を国に返納しなければならない立場に追い込まれました(※返還に伴う違約金や利息なども発生しうるケースです)。
さらに札幌市も、この国の補助金交付に連動する形で750万円の「事業再構築サポート補助金」を2023年度に同社へ支出していました。市の制度上、国の交付決定を前提条件としていたため、国が取り消した以上、市も交付決定を取り消す必要があります。札幌市は2025年8月時点で週明けにも交付取消と全額返還請求の手続きを行う方針を固めたと報じられました。地方自治体としても、公金支出の前提が崩れた以上は適切に対応せざるを得ず、国と歩調を合わせて対応に乗り出した形です。
この「違法施設への補助金」問題は、市民や有識者からも「なぜ許可もない違法施設に多額の税金が投入されたのか」と強い疑問・批判の声が上がりました。本来、行政による補助制度は地域事業者を支援する善意の仕組みですが、手続きや審査が杜撰だと違法状態を助長する結果にもなりかねません。今回の件は補助金制度の透明性やチェック体制の課題を浮き彫りにし、行政内部でも深刻に受け止められています。
国会での指摘と運営会社の抵抗姿勢
この補助金交付と無許可開発の矛盾は、国政の場でも取り上げられました。2024年4月の衆議院経済産業委員会において、立憲民主党の荒井優議員が「無許可開発を行った事業者に多額の補助金が渡ったのは問題ではないか」と質問し、行政の対応を質したのです。これに対し武藤義昭経産相(当時)は「所管の中小企業基盤整備機構により適切かつ厳正な対応が取られるものと認識している」と答弁し、違反には厳しく対処する姿勢を示しました。国会での追及を受けたことで、補助金交付元である機構側も迅速に事実関係を調査し、先述の交付取消・返還命令へと踏み切ったものと見られます。
一方、返還を命じられた運営会社サクセス観光は猛反発しています。代理人弁護士によれば、問題の宿泊施設はタイヤ付きの「トレーラーハウス」であり建築物ではないため、都市計画法の開発許可違反には当たらないと主張しているとのことです。補助金を活用して設置されたとみられるトレーラーハウス型宿泊施設。運営会社は「これは建築物ではなく都市計画法違反ではない」と主張している。実際にタイヤ付き可動式のトレーラーハウスは建築基準法上「建築物」に該当しない可能性がありますが、都市計画法で開発行為とみなされるか否かは設置形態や利用実態によります。行政側は少なくとも固定施設として無許可開発が行われたと判断しています。
運営会社は「返還には応じられない」との意向を表明しており、今後この返還命令の取消を求めて国を相手取り提訴する方針も明らかにしています。法廷では、違法性の認定や補助金交付取消の適法性について争われる見通しです。行政処分の取り消し訴訟となれば決着まで時間を要する可能性もあり、その間補助金の扱い(返還延期の可否など)も争点になるでしょう。ただし返還命令が確定すれば、仮に資金を既に使い込んでいたとしても全額返金は不可避であり、同社にとっては経営を揺るがす打撃となります。こうした強硬な姿勢からは、運営側の経営的・法的苦境がうかがえますが、違法状態を自ら長年放置してきた責任は免れません。
行政側の課題と今後に向けた展望
今回のノースサファリサッポロの問題は、一施設の違法営業にとどまらず行政全体のチェック体制や補助金制度のあり方に警鐘を鳴らすものとなりました。まず、札幌市は都市計画法違反に長年対処しきれず、結果的に違法施設の拡大を許した責任があります。部署間連携の不足や法令横断的な監視メカニズムの不備といった課題が露呈し、今後類似ケースへの対応強化が求められます。市はようやく除却命令の検討に踏み切り、閉園と施設撤去の方向で動き出しましたが、動物の保護や移転先確保といった派生課題も抱えており、行政として総合力が問われています。
補助金交付の過程でも、法令順守状況の事前チェックが十分でなかったことが明白です。「許可前になぜ公金を出したのか」という市民の批判はもっともで、今後は補助金審査時に申請事業の法的適合性を厳格に確認する仕組みが必要でしょう。「違法業者に税金を投入するなど言語道断」といった声も多く、行政に対する信頼を揺るがす事態となりました。このため国や自治体では、補助金制度全体の点検や、交付後のモニタリング強化、違反発覚時の迅速な対応ルール整備など、再発防止策の検討が進むと予想されます。
幸いにも今回は国会での指摘や報道によって問題がクローズアップされ、国と市が連携して対応する流れとなりました。秋元札幌市長も「国の決定を条件に市も補助金を出したので、前提がなくなれば返還を求める」と明言し、厳正に対処する姿勢を示しています。行政内部では、この件を教訓に「チェック体制の甘さを二度と繰り返さない」との意識改革が求められるでしょう。
おわりに
ノースサファリサッポロの無許可開発と補助金返還命令問題は、単なる動物園経営のトラブルに留まらず、行政手続の適正さや公金支出の公平性を社会に問いかける出来事となりました。違法状態の施設に巨額の税金が投入されていた事実は、市民の間に大きな衝撃と不信感を広げています。国と札幌市は遅ればせながら是正に動き出しましたが、「なぜもっと早く対応できなかったのか」「制度全体の問題ではないか」という根本的な疑問が残ります。
今後、違法状態の解消と補助金の回収を粛々と進めることは当然として、それ以上に重要なのは再発防止と制度改善です。本来、地域の観光資源を育てるための善意の補助制度が、管理の不備によってかえって行政不信を招く結果となったことを真摯に受け止め、審査・監督体制の透明化と厳格化に取り組む必要があります。また、法令違反に対する行政指導の在り方についても、縦割りの弊害を乗り越えた統合的な対応が求められるでしょう。
行政関係者にとって、本件は「法令遵守の徹底なくして適正な行政なし」という原点を再確認する契機と言えます。適切な都市計画の運用と公正な補助金行政を両立させ、信頼される行政サービスを提供していくためにも、今回浮き彫りとなった課題に真摯に向き合い、組織横断的な改善策を講じていくことが肝要です。
