水戸のスタジアム構想が迷走
水戸市の高橋市長「スタジアムの質問は、私に隣の家の晩御飯は何かと聞いているのと同じです」と会見で述べておられました。スタジアム構想の現状についてまとめます。

時系列(主要トピックの流れ)
- 2019年9月:水戸市は、現本拠地「ケーズデンキスタジアム水戸(K’sスタ)」をJ1基準に改修するための基本計画費(500万円)を計上。改修総額は30~40億円規模との見立てだった。
- 2019年11月:クラブが**「民設民営での新スタジアム」**構想を表明。これを受けて、市のK’sスタ改修案は取り下げに。
- 2022年10月20日:クラブが新スタの工程感を公表(2024年度に予定地発表 → 2025年度設計 → 2026年度着工 → 2028年度竣工)。候補地はホームタウン15市町村から選定方針。
- 2023年12月:Jリーグがスタジアム基準の運用を一部柔軟化(ただしJ1の入場可能数15,000人基準は維持)。
- 2024年9月:J1クラブライセンス(2025季)で施設例外を適用。仮にJ1昇格なら、2027年6月末までに「場所・予算・整備内容」を備えた具体計画を提出、2029年6月末までに供用開始(条件次第で2033季開幕前日まで延長可)。
- 2025年1月31日:クラブが進捗を公表。場所は未確定のまま、完成時期(2028年度)は「白紙」に。建設費は150~200億円に上振れ、検討対象を15市町村+茨城県へ広げる方針を説明。
- 2025年2月25日:高橋靖・水戸市長が「公設」に否定的見解。「200億円規模のハード事業は市民理解が得られない」「改修を言うなら『自分の金でやって』と言わざるを得ない」と発言。市はインフラ整備等の周辺支援は可とする立場。
- 2025年8月25日:市長が改めて「市主体での新設・改修は全く考えていない」と明言。2019年に市は改修に踏み出しかけたが、クラブが事前協議なく民設新スタを発表した経緯も指摘。
いま何が問題か(背景整理)
- 現スタの仕様とJ1基準のギャップ
K’sスタは収容12,000人の陸上競技場(球技専用ではない)。J1は入場可能数15,000人以上が原則で、個席10,000席以上等の要件もある。よって現状ではJ1基準未充足。 - 計画の不確実性とコスト高
当初(2022年)は2028年度竣工の工程だったが、場所未決・コスト150~200億円に上振れし、工程を白紙化。資材・人件費高騰、用地確保難航が主因。 - 自治体とのスタンス差
市は2019年に改修へ動く意思を示したが、クラブの民設発表で計画が頓挫。現在は市主体の新設・改修に否定的で、インフラ等の周辺支援に限定する姿勢。財政負担と市民理解が最大の壁。 - ライセンスの時限
例外適用によりJ1昇格自体は猶予つきで可能だが、2027年までに具体計画、2029年(最長2033季前)までに供用という硬い期限が課されている。計画の遅延はライセンス上のリスク。 - クラブの規模感と資金動員
クラブ売上は2024年度に初の12億円超と成長中だが、150~200億円規模の事業を自力で回すのは重い。官民連携・広域連携・外部資金の組成が現実解。
今後の展望(シナリオとハードル)
- 現スタ改修でJ1基準化
- 内容:K’sスタの席数増設・機能強化でJ1要件クリアを目指す。
- 障害:市は主体的改修に否定的。2019年見積30~40億円も、今やれば「その倍」と市長発言(=60~80億円規模の可能性示唆)。財源調達と合意形成が最大の関門。
- 新スタ(民設/PPP/広域)
- 内容:ホームタウン15市町村+県まで射程を広げ用地確保、PPP/コンセッション/第三セク等で資金を組成。
- 障害:150~200億円級の資金調達、アクセス・環境アセス・周辺整備、運営収支の事業性の立証が必要。水戸市は公設に否定的で、県・広域連携の重みが増す。
- ライセンス例外の“時間”を使う
- 内容:2027年計画確定→2029年供用(最長2033季まで延伸可)を見据え、段階的に要件を詰める。
- 障害:期限内に「場所・予算・整備内容」を確定できなければ、昇格・ライセンスの制約に直結。
現実的な道筋(当面の要点)
- ① 用地の確定と選定基準の透明化:アクセス(駅/IC/バス)、周辺渋滞対策、騒音・環境配慮、非常導線を公開基準化。15市町村+県を巻き込むなら広域交通計画とセットで。
- ② 事業スキームの早期提示:SPC/PPPの枠組み、収益多角化(ホスピタリティ、命名権、イベント稼働)、長期修繕費の見込を数字で示し、150~200億円級の投資回収計画を説明。
- ③ 市・県の役割分担の明確化:水戸市はハード主体を否定。**県・広域連携での支援(道路・排水などの周辺整備)**の範囲、規制・手続きの迅速化を明文化。
- ④ ライセンスの“関門日”から逆算:2027年6月末の提出に向けた年内の用地内定→24か月以内の設計・許認可・資金組成という逆算工程で遅延マージンを確保。