鹿児島にサッカースタジアムを大量の税金を使って建てるべきなのか?〜整備計画における財政的・構造的リスク

鹿児島の税金無駄遣いサッカースタジアム 税リーグ
  1. 要旨
  2. 目次
  3. 1. 序論:Jリーグライセンスという「踏み絵」と自治体の苦悩
    1. 1.1 2026年シーズンと施設基準の厳格化
    2. 1.2 期限付きライセンスの罠
  4. 2. 候補地選定の迷走と行政の無謬性への疑義
    1. 2.1 北ふ頭構想の挫折:物流と娯楽の利益相反
    2. 2.2 浜町バス車庫の辞退:民間企業の倫理観と行政の甘え
    3. 2.3 県立テニスコート案における「玉突き移転」の不条理
  5. 3. 財政的妥当性の検証:他都市事例に見る「赤字の恒常化」
    1. 3.1 京都サンガスタジアム:公金100%負担の悪しき前例
    2. 3.2 ミクニワールドスタジアム北九州:好立地でも免れない営業損失
    3. 3.3 ノエビアスタジアム神戸:大都市・人気クラブでも赤字補填
    4. 3.4 吹田スタジアムモデル(民間主導)との決定的な乖離
  6. 4. 「経済波及効果」と「多機能化」という幻想
    1. 4.1 代替効果の無視と過大な需要予測
    2. 4.2 「多目的利用」の技術的・コスト的限界
    3. 4.3 キャンプ誘致の費用対効果
  7. 5. 「文化・誇り・連帯」論の論理的脆弱性に対する批判
    1. 5.1 定性的価値の濫用と定量的責任の回避
    2. 5.2 「オール鹿児島」という同調圧力の正体
  8. 6. ガバナンスとプロセスにおける構造的欠陥
    1. 6.1 デザインビルド(DB)方式に潜むコスト増大リスク
    2. 6.2 維持管理費(ランニングコスト)の隠蔽
  9. 7. 結論と提言:財政規律の回復に向けて
    1. 提言
  10. 付表:データ比較によるリスク評価
    1. 表1:スタジアム建設・運営モデルの比較
    2. 表2:鹿児島スタジアム計画における「隠れコスト」一覧

要旨

鹿児島市において検討が進められている新サッカースタジアム整備計画について、その経緯、提唱されるメリット、潜在的なデメリット、そして特に懸念される公金支出の妥当性について、厳格かつ批判的な視点から分析を行ったものである。Jリーグによるライセンス基準の厳格化と、2026年秋春制移行という外的圧力を背景に、鹿児島ユナイテッドFCのJ1昇格要件を満たすための施設整備が急務とされている。しかし、これまでの候補地選定における迷走、とりわけ北ふ頭および浜町バス車庫の断念、そして県立テニスコート移転に伴う二重投資の懸念は、行政の計画性の欠如を露呈している。

本分析では、他都市(京都、北九州、神戸)のスタジアム収支事例を参照し、プロスポーツ施設が構造的に赤字を生み出しやすい性質を持つことを明らかにする。また、「市民の誇り」「文化振興」といった定性的な主張に対し、それらが巨額の税金投入を正当化する論理的根拠として極めて脆弱であることを指摘する。結論として、現在の計画プロセスは「公共による民間事業の肩代わり」というモラルハザードの様相を呈しており、厳格な財政規律と受益者負担の原則に立ち返らない限り、将来世代に対する深刻な負債となるリスクが高いことを警告する。

目次

  1. 序論:Jリーグライセンスという「踏み絵」と自治体の苦悩1.1 2026年シーズンと施設基準の厳格化1.2 期限付きライセンスの罠
  2. 候補地選定の迷走と行政の無謬性への疑義2.1 北ふ頭構想の挫折:物流と娯楽の利益相反2.2 浜町バス車庫の辞退:民間企業の倫理観と行政の甘え2.3 県立テニスコート案における「玉突き移転」の不条理
  3. 財政的妥当性の検証:他都市事例に見る「赤字の恒常化」3.1 京都サンガスタジアム:公金100%負担の悪しき前例3.2 ミクニワールドスタジアム北九州:好立地でも免れない営業損失3.3 ノエビアスタジアム神戸:大都市・人気クラブでも赤字補填3.4 吹田スタジアムモデル(民間主導)との決定的な乖離
  4. 「経済波及効果」と「多機能化」という幻想4.1 代替効果の無視と過大な需要予測4.2 「多目的利用」の技術的・コスト的限界4.3 キャンプ誘致の費用対効果
  5. 「文化・誇り・連帯」論の論理的脆弱性に対する批判5.1 定性的価値の濫用と定量的責任の回避5.2 「オール鹿児島」という同調圧力の正体
  6. ガバナンスとプロセスにおける構造的欠陥6.1 デザインビルド(DB)方式に潜むコスト増大リスク6.2 維持管理費(ランニングコスト)の隠蔽
  7. 結論と提言:財政規律の回復に向けて

1. 序論:Jリーグライセンスという「踏み絵」と自治体の苦悩

鹿児島市におけるスタジアム問題の核心は、市民の自発的な需要に基づく公共投資ではなく、一私企業であるJリーグおよびその加盟クラブ(鹿児島ユナイテッドFC)の存続条件として、自治体が巨額の設備投資を迫られているという構造にある。

1.1 2026年シーズンと施設基準の厳格化

Jリーグは、クラブライセンス制度を通じてスタジアムの規格を厳格に定めている。特にJ1ライセンスにおいては、屋根のカバー率やトイレの数、諸室の機能などにおいて極めて高い水準(カテゴリー1)が要求される。現在、鹿児島ユナイテッドFCがホームとする白波スタジアム(県立鴨池陸上競技場)は、屋根のカバー率不足により、この基準を満たしていない

特筆すべきは、2026年からJリーグがシーズンを秋春制(8月開幕・5月閉幕)へ移行することである。この変更は、冬季の観戦環境の確保をより強く要請するものであり、屋根や防風設備のない既存スタジアムの陳腐化を決定的なものとした。この「外圧」により、鹿児島市は本来の都市計画の優先順位を歪め、スタジアム建設を最優先課題として扱わざるを得ない状況に追い込まれている。

1.2 期限付きライセンスの罠

鹿児島ユナイテッドFCには現在、制裁付きのJ1ライセンスが交付されているが、これは恒久的なものではない。具体的には、2025年11月30日までに、基準を満たす新スタジアムの整備計画、もしくは既存施設の改修計画を書面で提出することが条件とされている

この「期限」の設定は、自治体行政にとって極めて危険なトラップとして機能する。

第一に、交渉力の喪失である。期限が設定されていることで、自治体は用地買収や建設業者選定において足元を見られやすくなる。時間をかけた慎重な精査やコストダウン交渉よりも、「期限に間に合わせること」が自己目的化するからである。

第二に、民主的プロセスの形骸化である。議論が紛糾した場合、「ライセンスが剥奪され、クラブが消滅しても良いのか」という情緒的な脅し文句が、財政規律を重視する慎重論を封殺するために利用される。現状の鹿児島市議会や検討委員会における議論も、この「時間切れ」の恐怖に支配されている側面が否めない。

2. 候補地選定の迷走と行政の無謬性への疑義

スタジアム建設地の選定プロセスは、一貫性を欠き、場当たり的な対応に終始している。これは、都市計画としてのビジョンよりも、消去法による「場所探し」が先行している証左である。

2.1 北ふ頭構想の挫折:物流と娯楽の利益相反

当初、有力な候補地として挙げられた鹿児島港本港区北ふ頭は、桜島を望む景観の良さから「海辺のスタジアム」として推進派の期待を集めた。しかし、この構想は港湾関係者からの猛烈な反対により頓挫した

批判的考察: 港湾機能と大規模集客施設の両立が困難であることは、専門的な都市計画の知見があれば初期段階で予見可能であったはずである。港湾は物流の結節点であり、大型トレーラーや荷役機械が稼働する産業空間である。そこに数万人規模の観客が押し寄せるスタジアムを建設すれば、物流の停滞、安全管理上のリスク、そしてテロ対策等の保安上の懸念(SOLAS条約等)が生じることは自明である。 港湾協会等が反対し、要望書を提出する事態を招いたことは、行政の調整能力不足と、産業基盤に対する軽視を示している。最終的に「断念は英断」と評価されるに至ったが、そこに至るまでに費やされた調査費や行政リソースは、明らかなサンクコスト(埋没費用)であり、税金の無駄遣いと言わざるを得ない。

2.2 浜町バス車庫の辞退:民間企業の倫理観と行政の甘え

さらに衝撃的であったのは、候補地の一つであった浜町バス車庫(民有地)に関して、所有者である岩崎コーポレーション(岩崎グループ)側から候補地除外の申し入れがあった事実である

岩崎芳太郎社長は、自身が商工会議所会頭という公職にある立場を踏まえ、自社地が選定されることが「利益誘導」と見なされるリスクを懸念し、除外を要請した。

ここには重大な皮肉が存在する。 民間企業トップが「利益誘導の疑念」を恐れて身を引く一方で、行政や推進派は、特定のスポーツ興行主(鹿児島ユナイテッドFC)のために数百億円規模の公金投入を行うことを「公益」と称して推進しているのである。民間が示した高度なコンプライアンス感覚に対し、公的セクターの倫理的ハードルがいかに低くなっているかを露呈した事例と言える。

2.3 県立テニスコート案における「玉突き移転」の不条理

北ふ頭、浜町が消えたことで、現在は県立鴨池庭球場(テニスコート)周辺が最有力候補として浮上している。しかし、ここには「代替施設整備」という新たな財政負担が発生する

二重投資のメカニズム:

既存のテニスコート(ハードコート16面、管理棟等)を解体し、そこにスタジアムを建てる。その代償として、県は市に対し、別の場所に同規模のテニスコートを新設することを求めている。

  1. 既存テニスコートの解体費
  2. 新テニスコート用地の取得費
  3. 新テニスコートの建設費
  4. 新スタジアムの建設費

これら全てが「スタジアム整備関連費用」として計上されるべきであるが、往々にして行政は、テニスコート移転費用を別会計や別事業として切り離し、スタジアム本体の建設費を安く見せようとする。これは典型的な「小さく生んで大きく育てる(費用を膨らませる)」公共事業の手法である。

現在稼働しており、市民に利用されているテニスコートをわざわざ破壊して移転させることは、純粋な社会的厚生の観点からはマイナス(破壊による損失)からのスタートとなる。この「玉突き移転」に要する数十億円規模のコストは、サッカーという特定競技のために、テニス愛好者や一般納税者が負担する構造となっており、公平性の観点から極めて問題が大きい。

3. 財政的妥当性の検証:他都市事例に見る「赤字の恒常化」

スタジアム建設推進派は、しばしば「経済効果」や「収益性」を謳うが、他都市の類似施設の決算資料は、冷酷な現実(赤字の垂れ流し)を示している。

3.1 京都サンガスタジアム:公金100%負担の悪しき前例

2020年に開業したサンガスタジアム by KYOCERA(京都府亀岡市)は、鹿児島が避けるべき最悪のモデルケースである。 建設費約154億円は、その全額が寄付金、交付金、そして府債(借金)を含む公金で賄われた。批判的検証によれば、2万人規模のスタジアムで154億円という建設費は、4万人収容のガンバ大阪の新スタジアム(約140億円)と比較しても割高であると指摘されている。 さらに、特定のプロスポーツが独占的に利用する施設に100%公金を投入することの不当性や、スポンサー企業に応分の負担を求めなかったことへの批判が、住民監査請求等の形で噴出している。 鹿児島市においても、建設費の大部分を合併特例債や起債で賄う計画であれば、京都と同様に「公設民営」の名の下に、建設リスクと負債だけを市民が背負う構図となる。

3.2 ミクニワールドスタジアム北九州:好立地でも免れない営業損失

北九州市のミクニワールドスタジアムは、新幹線小倉駅から徒歩圏内という、国内屈指の好立地にある「海辺のスタジアム」である。立地条件としては、鹿児島の本港区エリアよりも遥かに優れていると言える(新幹線直結のため)。 しかし、指定管理者である株式会社ギラヴァンツ北九州の令和5年度事業報告によれば、以下の通り赤字を計上している。

項目金額(百万円)
売上高932
売上原価・販管費1,033
営業損失▲101
当期損失▲116

分析の含意:

新幹線駅から徒歩7分、政令指定都市の人口規模、そしてJリーグクラブが運営に関与してもなお、年間1億円以上の営業赤字を出しているのである。

鹿児島において、北九州よりも交通アクセスや後背人口条件が劣る立地で、黒字化が可能であるという根拠はどこにあるのか。類似施設のデータは、スタジアム運営が構造的に赤字体質であることを示唆しており、鹿児島市が「黒字運営」をシミュレーションしているのであれば、それは楽観的すぎる架空の数字である可能性が高い。

3.3 ノエビアスタジアム神戸:大都市・人気クラブでも赤字補填

神戸市のノエビアスタジアム神戸は、イニエスタ選手などを擁したスター軍団・ヴィッセル神戸のホームである。日本有数の経済規模を持つ神戸市においてさえ、公営企業会計の決算においてスタジアム事業は赤字となり、一般会計からの繰入金等で補填されている実態がある。 「強いチームがあれば客が入って黒字になる」という仮説は、神戸の事例を見れば否定される。施設維持管理費(特に屋根や芝生)の負担は、チケット収入や広告収入を容易に上回るのである。

3.4 吹田スタジアムモデル(民間主導)との決定的な乖離

比較対象として必ず言及すべきは、ガンバ大阪のパナソニックスタジアム吹田である。このスタジアムは、建設費の大部分を法人・個人の寄付金と助成金で賄い、行政の税金投入を実質ゼロに抑えた奇跡的な事例である。 しかし、鹿児島ユナイテッドFCや鹿児島経済界において、数十億円規模の寄付金を集める動きは見られない。京都スタジアムに関する批判にもあるように、本来プロスポーツビジネスは「受益者負担」であるべきだが、鹿児島においては「行政丸抱え」の京都モデルを踏襲しようとしている。これは、クラブ経営努力の不足を納税者に転嫁するものであり、資本主義経済の原則に反する。

4. 「経済波及効果」と「多機能化」という幻想

スタジアム建設の正当化によく用いられる「経済波及効果」や「交流人口の拡大」といった言葉は、その内実を精査すれば論理的な脆弱性が露呈する。

4.1 代替効果の無視と過大な需要予測

県サッカー協会等の要望書には、「交流人口の増加により地域や経済の活性化に寄与する」とある。しかし、経済学的には「代替効果(Substitution Effect)」を考慮しなければならない。 例えば、鹿児島市民が週末にスタジアムでチケットと飲食に5,000円を使ったとする。もしスタジアムがなければ、その5,000円は市内の映画館、レストラン、あるいはショッピングモールで使われていた可能性が高い。つまり、市内の消費総額は増えず、単に「他業種からサッカー興行へ消費が移動した」に過ぎない。これを「新規の経済効果」としてカウントすることは詐術的である。 真の経済効果は「市外・県外からの客」が落とす金のみであるが、J3やJ2の試合において、アウェイサポーターが毎回数千人規模で来鹿し、宿泊を伴う観光を行うという想定は非現実的である。

4.2 「多目的利用」の技術的・コスト的限界

「サッカーだけでなく、コンサートやイベントにも使える多機能スタジアム」という主張も、多くの自治体で繰り返される常套句である。しかし、これには技術的な壁がある。 Jリーグ基準の高品質な天然芝は、極めてデリケートである。ピッチ上にステージを組んだり、数万人の観客をアリーナ席に入れたりすれば、芝は死滅する。芝の養生と張り替えには数千万円単位のコストと数週間の期間を要するため、頻繁なイベント開催は事実上不可能である。 結果として、「多機能」を謳って建設されたスタジアムの多くが、実際には年間の稼働日数が極めて少ない「閑古鳥が鳴く巨大建造物」と化している。鹿児島市がこのジレンマを解消する画期的な技術(例えば札幌ドームのようなホバリングステージ等)を導入する計画はないため、コンサート利用による収益確保は画餅に帰すであろう。

4.3 キャンプ誘致の費用対効果

「日本代表やラグビー等のキャンプを誘致できる」というメリットも強調される。 しかし、キャンプ誘致のために200億円のスタジアムを建設するのは、100円の利益を得るために1万円の投資をするようなものである。キャンプ地としての選定基準は、静寂な環境、質の高い練習グラウンド、宿泊施設との近接性であり、必ずしも2万人収容の観客席付きスタジアムが必要なわけではない。 キャンプ需要に応えるならば、既存のふれあいスポーツランド等のグラウンド整備を強化する方が遥かに安上がりであり、スタジアム建設の理由付けとしては論理が飛躍している。

5. 「文化・誇り・連帯」論の論理的脆弱性に対する批判

財政的な正当化が困難になると、推進派は決まって「文化」「誇り」「夢」といった定性的な価値を持ち出す。これらは反論しにくい「正論」のように響くが、政策評価の観点からは厳しく問い詰められるべき曖昧な概念である。

5.1 定性的価値の濫用と定量的責任の回避

要望書にある「鹿児島市民県民らを魅了し、連帯感を高め」という文言は、行政文書における評価指標として不適切である。 「連帯感」は定量化できず、事後検証も不可能である。100億円の税金を投入して「連帯感が10ポイント上がりました」という報告は成立しない。 また、「子供たちに夢を」という主張は、教育予算や子育て支援予算を削ってスタジアムに回すことの正当化にはならない。真に子供の未来を考えるならば、老朽化した学校校舎の改修や、給付型奨学金の拡充にこそ税金を投入すべきであり、プロスポーツ観戦という「娯楽」の優先順位がそれらを上回る論理的根拠は示されていない。

5.2 「オール鹿児島」という同調圧力の正体

県と市が「オール鹿児島で取り組む」と合意した文書は、一見すると協力体制の確立に見えるが、実際には責任の所在を曖昧にする装置として機能する恐れがある。 「オール鹿児島」というスローガンは、異論を唱える者を「非国民(非県民)」扱いし、排除する同調圧力を生み出しやすい。冷静な財政規論や、テニスコート利用者などの少数派の意見が、この全体主義的なスローガンの下で圧殺されている可能性がある。真の民主主義的プロセスとは、全会一致を演出することではなく、反対派の懸念に対して具体的かつ数字に基づいた回答を示すことである。

6. ガバナンスとプロセスにおける構造的欠陥

最後に、計画の進め方(ガバナンス)における重大なリスク要因を指摘する。

6.1 デザインビルド(DB)方式に潜むコスト増大リスク

期限に間に合わせるため、設計と施工を一括発注する「デザインビルド(DB)方式」の採用が検討される可能性があるが、これには京都スタジアムでの教訓がある。 地質調査や環境アセスメントが不十分な段階でDB発注を行うと、着工後に想定外の事象(軟弱地盤、排水問題等)が発生した際、追加工事費が青天井に膨らむリスクがある。特に、埋立地や河川敷に近いエリア(テニスコート周辺含む)は地盤リスクが高く、発注段階でのコスト固定が困難である。拙速な契約は、将来的な訴訟リスクや公金支出差止請求の火種となる。

6.2 維持管理費(ランニングコスト)の隠蔽

建設費(イニシャルコスト)の議論は盛んだが、今後30年〜50年にわたる維持管理費(ランニングコスト)の詳細なシミュレーションが市民に提示されていない。

大規模スタジアムの屋根や外壁は、台風や桜島の降灰による劣化が激しく、定期的な大規模修繕が必要となる。一般的に、公共施設のライフサイクルコストは建設費の3〜4倍に達すると言われる。

建設費200億円とすれば、総コストは800億円に上る可能性がある。この将来負担について、「指定管理者が払う」という楽観論で済ませていないか。指定管理者が赤字で撤退すれば、最終的な尻拭いはすべて市の一般会計(税金)に回ってくる。

7. 結論と提言:財政規律の回復に向けて

以上の調査・分析より、鹿児島新サッカースタジアム建設問題に関する結論は以下の通りである。

  1. 財政的暴挙である:他都市の事例から、公設スタジアムは構造的に赤字を生む負の資産となる確率が極めて高い。建設費に加え、テニスコート移転費、将来の維持管理費、赤字補填を含めれば、市民負担は数百億円規模に達する。
  2. 論拠が希薄である:「経済波及効果」は代替効果を無視した過大推計であり、「多機能化」は芝生管理の実情を無視した空論である。「文化・誇り」は巨額支出を正当化する論理として機能しない。
  3. プロセスが非民主的である:Jリーグの期限を盾にした拙速な候補地選定と、反対意見を封じるような「オール鹿児島」の演出は、健全な地方自治の姿ではない。

提言

本計画が「税金の無駄遣い」という汚名を残さないために、以下の措置を講じることを強く提言する。

  • 100%受益者負担原則の導入:建設費および運営費について、税金投入の上限を条例で定め、超過分はクラブおよび民間スポンサーが全額負担する法的拘束力のある契約を締結すること。吹田モデルに倣い、寄付金募集を先行させ、その集まり具合で建設規模を決定すべきである。
  • テニスコート移転費用の内部化:テニスコート移転費用を別会計とせず、スタジアム事業費に合算し、その総額でB/C(費用対効果)分析をやり直すこと。
  • 撤退ラインの設定:2025年11月の期限までに、民間資金による調達の目処が立たない場合、J1ライセンス返上も辞さない覚悟で計画を凍結すること。「身の丈」に合わないハコモノ建設は、クラブにとっても将来的な重荷となり、共倒れを招くことを認識すべきである。

鹿児島市に求められているのは、一時の熱狂に流されることなく、100年後の市民に対して説明責任を果たせる冷静かつ冷徹な政治決断である。

付表:データ比較によるリスク評価

表1:スタジアム建設・運営モデルの比較

項目吹田モデル(ガンバ大阪)京都モデル(サンガ)鹿児島計画(想定)
主な建設財源法人・個人の寄付金、助成金全額公金(府・市・toto)全額公金(税金・債券)
建設費約140億円(4万人規模)約154億円(2.16万人規模)推定200億円超(テニスコート移転含)
コスト効率高い(民間発注)低い(公的発注・批判有)低い(二重投資・資材高騰)
運営収支黒字基調(自立経営)赤字(税金補填有)赤字必至(北九州・神戸事例より)
リスク負担クラブ・民間納税者納税者

表2:鹿児島スタジアム計画における「隠れコスト」一覧

コスト項目内容とリスク負担者
建設費本体スタジアム建設、屋根設置、諸室整備市・県(税金)
代替施設整備費テニスコートの用地取得、造成、建設(16面)市(税金)
解体撤去費既存テニスコートおよび周辺施設の解体市(税金)
インフラ整備費周辺道路の拡幅、上下水道の増強市(税金)
維持管理費今後30年以上の修繕、清掃、警備、光熱費市(指定管理料として)
芝生張替費コンサート等イベント利用時の養生・交換費市または主催者
災害復旧費桜島降灰除去、台風被害修繕市(税金)

これらのコストを合算した「総事業費(Total Cost of Ownership)」を明示せずに、「建設費」のみを議論することは、市民に対する背信行為に等しい。

タイトルとURLをコピーしました