オルツ粉飾決算の時系列と経緯
オルツは、AI議事録サービス「AI GIJIROKU」などを手掛ける東証グロース上場企業でした。
1. 不正な会計処理の開始と上場(時期不明〜上場直前)
- 架空売上の計上(循環取引): オルツは、特定の取引先(わずか3社で売上の約9割を占めていたとされる)との間で、実態の伴わない循環取引を行いました。これは、オルツが商品やサービスを取引先に販売し売上を計上した後、その代金に近い金額を広告宣伝費や業務委託費などの名目で取引先やその関係会社に支払うというものです。
- これにより、帳簿上は売上が急速に右肩上がり(2020年12月期の5500万円から翌年に9.5億円、さらに41億円、60億円と急増)しているように見せかけました。
- 目的: 経営実態以上の好業績を偽装し、上場審査を通過することや、上場後の株価維持を図ることが目的だったと見られています。
2. 粉飾疑惑の表面化(2024年4月頃)
- 決算発表での不自然な数字: 2024年12月期(上場後初の通期決算)の開示内容において、売上高約60億円に対して宣伝広告費が約45.8億円という極めて高い比率(75%)を示し、最終損失が約26.9億円に達するなど、数字の整合性に市場から疑問の声が拡大しました。
- 内部告発・報道: SNSや一部報道で、元社員などから「未使用アカウントの大量売上計上」や「広告費名目のキックバック(リベート)」といった、粉飾を示唆する実態が告発され、疑惑が表面化しました。
- 株価急落: 疑惑の発覚後、オルツの株価は暴落しました。
3. 不正の確定と上場廃止(2025年6月〜8月)
- 第三者委員会の設置・調査: 疑惑を受け、オルツは第三者委員会を設置し、調査を開始しました。
- 粉飾の確定: 調査の結果、複数の事業年度にわたる架空売上の計上が確認され、売上の大半が偽装された粉飾決算であったことが判明しました。不正に水増しされた金額は、上場前の期間も含めて111億円にのぼるとされています。
- 東京証券取引所の決定: 2025年8月31日をもって、東証はオルツを上場廃止とする決定を下しました。
4. 元社長らの逮捕(2025年10月9日)
- 東京地検特捜部の捜査: 報道によると、2025年6月頃には東京地検特捜部が幹部らから事情聴取に踏み切ったとされています。
- 逮捕: 2025年10月9日、東京地検特捜部は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで、オルツの元社長ら幹部を逮捕しました。容疑は、架空の売上を計上して粉飾決算を行い、虚偽の有価証券報告書を提出したというものです。
粉飾の手法:「循環取引」のカラクリ
オルツの粉飾決算で主に使用されたとされる循環取引は、経済的実態の伴わない架空取引です。
- 売上計上: オルツが関係会社に対し、AI議事録サービスなどの商品やアカウントを大量に販売したとする契約を結び、売上を計上します。
- 資金の還流: オルツは、計上した売上と同額かそれ以上の資金を、広告宣伝費や業務委託費といった名目の費用として、販売先の関係会社に支払います。
- 会計の偽装: 結果として、会社間の資金はぐるっと一回りしただけで、オルツには実際の利益は残りません。しかし、帳簿上は「売上高」と「費用」が大きく計上されることで、見かけ上の売上高を膨らませることに成功し、市場の信用を得ようとしました。
この事件は、新興企業の上場におけるガバナンスのあり方や、監査法人のチェック体制の甘さなど、幅広い問題提起をしました。
社長の経歴
オルツの元社長である米倉 千貴(よねくら かずたか)氏は、AI新興企業オルツの創業者であり、連続起業家として知られていましたが、粉飾決算事件で逮捕されました。
粉飾決算による逮捕容疑
オルツの元社長であった米倉氏は、2025年10月9日、東京地検特捜部により逮捕されました。
米倉氏は、オルツを創業する以前から、複数のIT企業を立ち上げ、成長させた経歴を持つ人物です。
時期 | 経歴の概要 |
1977年 | 生まれ。 |
愛知大学文学部在学中 | 株式会社メディアドゥ(現・株式会社メディアドゥホールディングス)に参加。 |
2001年4月 | 株式会社メディアドゥの取締役に就任。 |
2004年 | 独立し、コンテンツプロデューサーとして活動。 |
2006年 | 株式会社未来少年を設立。グラフィック、ゲーム、メディア系のサービスを展開し、年商15億円規模の企業に成長させる。 |
2014年 | 株式会社未来少年の全事業を売却(バイアウト)。 |
2014年11月 | 株式会社オルツを創業し、代表取締役社長に就任。「P.A.I.(パーソナル人工知能)」の開発・提供を掲げ、AI分野のベンチャーとして注目を集める。 |
2024年 | オルツが東証グロース市場に上場。 |
2024年4月頃 | オルツの粉飾決算疑惑が浮上し、その後、社長を辞任。 |
逮捕の容疑
- 容疑: 金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)
- 内容: 架空の売上を計上する循環取引などの不正な会計処理を行い、上場前の有価証券届出書や上場後の有価証券報告書に虚偽の記載をした疑い。
- 水増し額: 2022年1月から2024年6月の期間の売上高で計約84億円、2024年12月期の売上高で約49億円を水増しした疑いなどが報じられています。
- 認否: 関係者によると、米倉容疑者は逮捕前の事情聴取に対し、容疑を認めていたとされています。
この事件は、AIベンチャーとして期待された企業の経営者による大規模な不正として、市場に大きな衝撃を与えました。