2025年9月ごろに報じられた「補助金・助成金・給付金などをめぐる不正受給・横領等」事案を、確認できた範囲で整理し、個別に解説したものです。ただし、報道ベースのものが中心であり、真偽や判決内容については最終的な公的資料(裁判記録、行政処分通知等)を併せて確認する必要があります。
事案名 | 地域 / 関係主体 | 不正の内容 | 不正金額 / 規模 | 公表日 / 報道 | 備考・処分状況 |
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横浜市の保育所運営法人「KID-G」による給付費・補助金の不正受給 | 神奈川県・横浜市ほか | 認可外保育所の職員を認可保育所勤務と偽装、勤務時間水増し、自宅家賃補填を法人が負担する虚偽申請等 | 約3億1,500万円(横浜分)、さらに川崎市分も含めて計数億円規模 | 2025年9月12~13日報道 | 横浜市が返還・改善を求め、法人側は「返還する」と表明。調査中との報道 |
大分県 別府「はとタクシーグループ」の雇用調整助成金不正受給 | 大分県 別府市 | 従業員が実際には出勤していたにもかかわらず休業扱いと虚偽申請、休業手当・助成金を不正取得 | 約1億9,300万円 | 2025年9月19日報道 | 労働局が調査し、返済手続き中との報道 |
鹿児島市の社会福祉法人「天祐会」による就労支援報酬の不正受給 | 鹿児島県 鹿児島市 | 障害者向け就労支援と称して偽りの実績を作り、報酬を不正取得 | 約2,500万円超 | 2025年9月26日報道 | 市が給付金返還を命じる行政処分を実施 |
秋田県・温泉宿泊施設役員による観光助成金クーポン横領 | 秋田県 | 宿泊助成クーポンを、架空の宿泊客を装って受け取り、それを横領 | 約120万円相当 | 2025年9月10日報道 | 再逮捕・起訴と報じられており、公判中との扱い |
HIS子会社「ツアー・ウェーブ」による雇用調整助成金の不正受給 | 宮城県(仙台市) | 雇用調整助成金を不正受給と認定され、返還勧告を受けた | 約1億8,406万2,660円 | 2025年9月12日発表 | 同社社長の報酬を3か月間30%減額する社内処分も決議 |
1. 横浜市「KID-G」による保育・給付金等の不正受給
概要・不正手法
- KID-Gという法人が、認可保育所および認可外保育施設を運営する中で、認可外保育所の職員が認可保育所で勤務しているように見せかけて申請。つまり、勤務実態を偽装した形で給付費を請求。
- 保育士の自宅家賃を法人が補填していた実態を、「法人が全額負担している」と虚偽に記載して補助金を得ようとした記録もあるとされる。
- また、勤務時間の水増し申請もあったとされる。
金額規模
- 横浜市分で約3億1,500万円。
- また、川崎市も含めた他地域分が2590万円程度との報道もあり、合計で3億数千万円規模に。
対応・処分
- 横浜市側は、改善勧告を行ったと報道されており、不正受給額の返還を求めている。
- 法人側は「速やかに返還する」とコメントしているものの、具体的な返還方法や時期については公表されていない点が報道されている。
- 今後、行政処分(給付停止、交付要件の見直し等)や刑事責任(詐欺罪など)が問われる可能性があるが、報道時点ではそこまで至っていない。
論点・リスク
- 保育所運営という公共性の高い分野でこのような不正が行われたことに対する社会的信頼の毀損。
- 法人内部管理態勢・監査体制の甘さの指摘。
- 補助金・給付制度設計上のチェック・監督強化の必要性。
- 虚偽申請・所得隠しとの兼ね合いや刑事罰追及の判断。
2. 別府「はとタクシーグループ」による雇用調整助成金不正受給
概要・不正手法
- タクシー事業者である「別府はとタクシー」と「東はとタクシー」の2社が、2020年4月~22年11月の間、従業員が通常勤務していたにもかかわらず、休業扱いとして虚偽申請。つまり、実際には出勤していた従業員を「休業」したと偽ることで休業手当・助成金を取得。
- この手法により、本来支給されるべきでない助成金を取得した点が不正にあたる。
金額規模
- 合計で約1億9,300万円の不正受給。
対応・処分
- 大分労働局が調査を進めており、現在返済手続き中との報道。
- 社長や経営陣の責任追及や、助成金申請制度の見直しを求める声も報じられている。
論点・リスク
- コロナ禍という特殊な経済環境下で拡充された助成制度が逆手に取られた点。
- 従業員の実態確認・出勤実績管理の制度的強化が必要。
- 行政側の審査・追跡可能性・不正検知能力の課題。
- 返還可能性・刑事責任追及の可否。
3. 鹿児島市「天祐会」による就労支援報酬不正受給
概要・不正手法
- 障害者就労支援を行う事業者として報酬を受ける制度において、実際には提供していない支援内容を偽装、また実績を過大に報告し、給付金(報酬)を不正取得。
金額規模
- 約2,500万円超の不正受給。
対応・処分
- 鹿児島市が行政処分を実施し、給付金の返還を命じている。
- 今後、事業者登録の停止や制度参加停止処分、さらには刑事責任追及の可能性が想定される。
論点・リスク
- 福祉分野での助成金制度における監査の弱さが問題。
- 支援実績のチェック体制、第三者モニタリング、報告の精査体制の重要性。
- 利用者被害との関係。誤った実績報告が支援の信頼性を損なう可能性。
4. 秋田県温泉宿泊施設役員による観光助成金クーポン横領
概要・不正手法
- 秋田県の宿泊支援策「秋田へGo!秋田を旅しようキャンペーン」などを悪用し、宿泊客を架空に装って紙クーポン・電子クーポンを発行・受け取り、それを横領。
- クーポン枚数約1,200枚、金額にして120万円相当を不正に流用。
対応・処分
- 再逮捕・起訴されており、公判中との報道。
- 補助制度事務局・観光支援実施機関による精査・返還請求・制度見直しが予想される。
論点・リスク
- 観光需要喚起策という政策目的と不正誘発リスクのバランス。
- クーポン発行・配布・利用・精算過程でのチェック体制の脆弱性。
- 他地域・他制度での横行可能性。
- 刑事責任・横領罪適用の妥当性。
5. HISグループ子会社「ツアー・ウェーブ」による雇用調整助成金不正受給
概要・不正手法
- 厚生労働省宮城労働局が、同社による雇用調整助成金の不正受給を認定。
- 不正受給の具体的手口(勤務実態偽装など)について、報道段階では詳細開示されていない。
金額規模
- 約1億8,406万2,660円を返還するよう勧告を受けた。
対応・処分
- 勧告を受けて同社は返還を行い、さらに社内処分として社長報酬の3か月30%削減を決定。
- 今後、同種不正行為への更なる制度監視の強化が見込まれる。
論点・リスク
- 大手グループ企業による不正事案という象徴性。
- 不正発覚後のガバナンス対応、企業倫理の立て直し。
- 同種不正の横展開防止策、助成制度の審査強化。
総括・注意点・今後の見通し
- 報道ベースに依存していること
上記一覧・解説は主にニュース報道をもとにしたものです。最終的には、行政機関発表・裁判記録・補助金交付事業者の公表資料を確認することが望ましいです。 - 不正の類型
これら事案に共通する不正手法として、
- 勤務実態偽装(休業申請、時間水増しなど)
- 架空申請・実績誇張
- クーポン等助成券の横領・流用
- 家賃補填や経費補填の虚偽表示
などが見られます。 - 制度設計・監査体制の脆弱性
助成金・給付金制度は、迅速性や柔軟性を重視するあまり、不正検知や事後監査機能が追いつかないことがあります。制度設計時点での「リスク予防設計」、交付後モニタリング・フォローアップ強化が不可欠です。 - 返還・処分・刑事責任
不正受給が認定されれば、まず返還命令が出されるのが一般的です。その後、交付停止、事業参加禁止、さらには詐欺罪・横領罪など刑事訴追される可能性もあります。ただし、すべての事例で刑事罰が適用されるわけではなく、証拠の確実性や適用法令の関係も影響します。 - 影響・社会的意味
公共性の高い福祉・保育・障害者支援・観光事業分野での不正が相次いでいることは、制度運営への信頼を揺るがします。行政・監査機関、補助金等交付側自治体・国、そして受給主体(企業・団体)は、制度の透明性・説明責任・監査強化を図る必要があります。