被害額約477万円、領収書の偽造も発覚 「心の復興事業」を悪用
福島県富岡町は12日、町が交付した「心の復興事業補助金」を不正に利用したとして、町外に拠点を置く法人およびその代表者に対し、交付済みの補助金全額にあたる約477万円の返還を求めて提訴する方針を固めた。また、実績報告書に偽造された領収書が使用されていたことから、有印私文書偽造の疑いで刑事告発する準備も進めている。
同日開かれた町議会全員協議会で、町執行部が12月定例議会に提出する関連議案として説明した。
借金返済に流用、業者への未払いも
町によると、問題となっているのは2024年度(昨年度)および2025年度(本年度)に実施された「富岡町心の復興事業補助金」。この補助金は、震災後のコミュニティ形成や町民の生きがいづくりを行う団体を支援するための制度である。
当該法人は、町のシンボルであるツツジの再生事業を行う名目で補助金を受けていたが、実際には交付された資金を当該法人の借金返済や、この事業とは無関係な他事業への支払いに充てていた。
さらに、町へ提出された事業完了報告書には、人件費として支払ったとする領収書が添付されていたが、これが偽造されたものであることが判明した。実際には人件費や委託先事業者への代金が未払いのままとなっており、事業費が適切に使われていなかった実態が浮き彫りとなった。
業者からの相談で発覚
不正の隠蔽が明るみに出たきっかけは、今年7月に寄せられた外部からの相談だった。 事業の委託先となっていた事業者から「代金が支払われていない」と町に相談があり、町が事態を把握。当該法人に対して聞き取り調査を行ったところ、補助金の目的外流用、領収書の偽造、そして関係者への未払いが次々と明らかになった。
「ツツジ再生」は別団体が継続へ
今回の事態を受け、町は同補助金を受けている他の全ての団体についても緊急調査を実施したが、当該法人以外には事業の適正な実施が確認されたという。
当該法人が担当していた「ツツジ再生事業」は、夜ノ森地区の桜と並び称される富岡町の観光資源であるツツジを、住民の手で育て再生させる重要なプロジェクトだった。町は事業の重要性を鑑み、今後は町内の別の団体が引き継ぎ、継続して実施するとしている。
町は今後、速やかに提訴の手続きを進めるとともに、警察への告発を含めた法的措置により厳正に対処する構えだ。
プロジェクトについて
NPO法人元気になろう福島

富岡町の「ツツジ再生事業」について詳しく調査しました。
この事業は、東日本大震災とそれに伴う避難・除染作業によって失われかけていた「町の花」ツツジの復活を目指すとともに、そのプロセスを通じて「地域コミュニティの再生」を図ることを目的とした、富岡町ならではの復興プロジェクトです。
富岡町ツツジ再生プロジェクトの概要と背景
プロジェクト名
富岡町つつじ再生プロジェクト
主な実施団体
特定非営利活動法人 元気になろう福島、Ichido株式会社、富岡町、とみおかプラスなど
再生の対象と目的
| 項目 | 詳細 |
| 対象 | かつてJR夜ノ森駅構内などに咲き誇っていた約6,000株のツツジ。これらのツツジは、昭和56年のコンクールで全国花いっぱい「花と緑の駅」コンクールで日本一に輝いた、町民の誇りでした。 |
| 背景 | 震災後の避難により管理ができなくなったことや、除染作業による伐採で、ツツジが大幅に減少・放置され、町民の愛着や誇りも低下してしまいました。 |
| 目的 | 1. 町のシンボル復活: 震災以前の「つつじあふれる町」の景観を取り戻す。 2. コミュニティ再生: ツツジの育成・管理を通して、里親同士の交流を促進し、地域コミュニティを形成・活性化する。 |
事業の核となる「つつじの里親」制度
このプロジェクトの最大の特徴は、住民が主体となってツツジを育て上げる「つつじの里親」制度です。
- 仕組み:
- 町内に残るツツジから剪定された枝を使い、挿し木苗を作成します。
- この挿し木苗を、里親となることを希望した町民(帰還住民や避難中の町民など)に配布します。
- 里親はそれぞれの自宅などで、数年間かけて苗木を育成・管理します。
- 技術協力:
- ツツジのプロである須賀川市の「大桑原つつじ園」が全面協力しており、里親に対して定期的に育成指導のワークショップや、管理・生育方法を伝授しています。
- コミュニティ形成:
- 里親たちは、ワークショップや里親交流会、情報誌「とみおかつつじ通信」などを通じて交流し、ツツジという共通項でつながり、復興に向けた地域活動への参画意識を高めています。
再植樹の場所と今後の展開
里親によって育てられたツツジは、将来的には再び町内に植樹され、「つつじあふれる町」の景観を再生します。
- 第一目標の植樹地: JR夜ノ森駅東口の花壇への植栽が決定しています。
- 活動の広がり:
- 小中学校との連携: ツツジの苗育成プロジェクトや、ツツジの歴史や生態を学ぶ学習プログラムを通じて、次世代の育成と町の歴史継承にも取り組んでいます。
- 持続可能な管理体制: 植樹後の管理を小中学生、住民、元住民、里親が共同で行う仕組み(水やり当番制や灌水設備の整備)を構築し、活動が単発で終わらないように工夫されています。
特徴と評価
富岡町のツツジ再生事業は、単なる緑化事業を超えた、地域復興のモデルケースとして評価されています。
- 住民の主体性: 挿し木による再生という時間のかかるプロセスを、住民自らが担うことで、ツツジへの愛着や失われた誇りを取り戻す「心の復興」に重点が置かれています。
- 起業家精神: 若いつつじ農家(大桑原つつじ園出身者)が富岡町で「Ichido株式会社」を起業し、プロジェクトをリードするなど、外部の専門知見と若い力が導入されています。
- 受賞歴: 環境省の「FUKUSHIMA NEXT」環境大臣賞を受賞するなど、その取り組みは高く評価されています。
心の復興事業補助金
「心の復興事業補助金」は、東日本大震災及び原子力災害の被災地である岩手県、宮城県、福島県の各自治体や、復興庁などが連携して実施している補助制度の総称です。
これは、単にインフラを復旧させる「モノの復興」だけでなく、避難生活の長期化や新たなコミュニティでの孤立といった課題に対応し、被災された方々の「心の健康」と「コミュニティの再構築」を支援するための事業です。
富岡町のツツジ再生事業も、まさにこの「心の復興事業」の一環として、住民の主体的な活動を支援する補助金が活用されています。
以下に、この補助金の全体概要、富岡町の制度、および代表的な採択事例を整理してご説明します。
「心の復興事業補助金」の全体概要
この補助金制度は、国(復興庁の被災者支援総合交付金)を原資とし、各県や市町村が独自の要綱を定めて実施するものです。
🔹 目的
- 被災者の心身のケア(健康維持)
- 被災者の生きがいづくりと孤立防止
- 人と人とのつながり(コミュニティ)の再生・新たな構築
- 震災の記憶の風化防止や地域活性化
🔹 補助対象となる事業(例)
被災者が主体的に参画し、継続的に行われる活動が重視されます。
- 災害公営住宅の住民や地域住民との交流会、サロン活動の運営
- 地域の伝統文化や芸能、歴史を継承する活動
- 農作業や手芸などの生きがいづくりにつながるワークショップ
- 地域の課題解決に向けたまちづくり・コミュニティ活動の企画・実施
🔹 補助対象者
- 特定非営利活動法人(NPO)
- ボランティア団体、公益法人、社会福祉法人
- 地縁組織(自治会、町内会など)
- 協同組合などの民間非営利組織等
🔹 補助金額・補助率
- 補助上限額: 事業内容や自治体によりますが、150万円〜350万円程度(富岡町は200万円に加算枠あり)。
- 補助率: 原則として、補助対象経費の10分の10以内(全額補助)としている自治体が多いです。
富岡町の「心の復興事業補助金」
富岡町では、「富岡町心の復興事業補助金交付要綱」に基づき、特に原子力災害による避難・帰還という特殊な事情に対応した活動を支援しています。
🔹 補助対象事業の具体的な種類
富岡町の補助金は、以下のいずれかに該当する事業を重点的に支援しています。
- 地域コミュニティの再生及び新たな構築に向けた事業
- 住民の心身のケアや生きがいづくりに向けた事業
- 震災の風化防止や地域活性化に向けた事業
- その他町長が認める事業富岡町のツツジ再生事業は、主に上記の1、2、3のすべてに該当する活動として位置づけられています。
🔹 補助対象とならない事業の例
- 営利を目的とした事業
- 主たる内容を一括して外部に委託する事業(住民の主体性が失われるため)
- 特定の個人または団体のみを対象とした事業
🔹 補助額・交付実績
富岡町では、事業内容に応じて上限200万円(特に効果が高い場合は最大150万円の加算が可能)と定めています。
| 採択事例(令和6年度富岡町交付実績の一部) | 補助決定額(概算) |
| NPO法人富岡町3・11を語る会(震災語り継ぎ事業など) | 3,500,000円 |
| NPO法人元気になろう福島(ツツジ再生プロジェクト含む) | 3,493,000円 |
| すくのびくらぶ(子育て世代・子どもの居場所創出) | 1,118,000円 |
他地域の採択事例(岩手県・宮城県)
富岡町以外でも、被災地の状況に合わせた様々な「心の復興」活動が補助されています。
| 団体名/事業名 | 実施内容(例) | 目的 |
| 三陸ブルーラインプロジェクト(岩手・宮城) | モザイクタイルアート制作ワークショップを開催し、制作物を防潮堤などに設置。 | 世代間交流、地域活性化、心理的ケア |
| 音楽の力による復興センター・東北 | クラシック音楽家による「復興コンサート」の開催。 | 生きがいづくり、交流機会の創出 |
| 落語とe-sportsによる心の復興事業(釜石市) | 落語会及びe-sports交流会を実施。 | 孤立防止、多様な世代・住民間の交流促進 |
| 故郷の記憶を記録する事業(宮城県) | 住民と大学生が街歩きを行い、震災前の故郷の記憶を記録。冊子化し心の拠り所とする。 | 風化防止、心の拠り所づくり |
この補助金は、被災地の復興が次のステージに進む中で、住民自身が立ち上がり、生活の質(QOL)を高める活動を、行政が財政的にサポートする仕組みであると言えます。

